Aβ1-42によって誘導される神経毒性に対するAβ1-40の細胞保護作用の検討

K. Zou1), D. Kim2), A. Kakio3), K. Byun2), J.-S. Gong1), M. Kim2), N. Sawamura1), S. Nishimoto3), K. Matsuzaki4), B. Lee2), K. Yanagisawa1), and M. Michikawa1)


1)
国立長寿医療研究センター痴呆疾患研究部, 2) College of Medicine and Institute of Medical Science, Cheju National University, 3) 京都大学大学院工学研究科 4) 京都大学大学院薬学研究科

 

はじめに:我々は、が重合(凝集)状態に依存した作用を持つことを明らかにし、当学会で発表してきた。すなわち、重合体では神経細胞内コレステロール代謝障害を誘導する(Michikawa et al, J Neurosci, 2001; Gong et al, J Neurosci Res, 2002)が、単体は、金属と結合して活性酸素の発生を抑制し、細胞保護作用を発揮すること(Zou et al, J Neurosci, 2002)を見出した。今回は、単体(重合体Aβ1-40)が重合体Aβ1-42の神経毒性作用に対する影響を検討した。

対象と方法:神経細胞培養は、E17のラット大脳皮質から調整した。Aβ1-40およびAβ1-42は、既報の方法(Zou et al, J Neurosci, 2002)により準備し、培養に加えた。の凝集状態は、thioflavin-Tアッセイおよび電子顕微鏡によって評価した。また、Aβ1-42およびAβ1-40のラット脳内への注入を行い、タウのリン酸化および反応性アストロサイトの出現を定量した。

結果:1) Aβ1-422-3 μM以上の濃度で加えると、添加後2日目にはほぼ100%近く神経細胞死が誘導された。2) 5μM以上の濃度のAβ1-40は、Aβ1-42による神経細胞死を抑制した。3) しかし、金属キレーターは、Aβ1-42による神経細胞死を抑制できなかった。4) またAβ1-425μM)を37°C24時間インキュベーションして形成されるアミロイドも、5μM以上の濃度のAβ1-40によって抑制された。5) Aβ1-42の大脳皮質内投与により、海馬におけるタウのリン酸化亢進、投与部位でのGFAP陽性細胞数の増加がみられ、Aβ1-40を加えることで、それらは抑制された。

考察:Aβ1-40Aβ1-42の重合化/アミロイド形成を抑制することでAβ1-42の神経毒性を抑制すると考えられた。細胞外ではAβ1-40/Aβ1-42比が約10/1であり、Aβ1-40Aβ1-42の重合化を抑制するに十分な量が存在するが、家族性アルツハイマー病などではこの比が低下し、重合化/アミロイド形成が促進し、病態プロセスを促進する可能性がある。